麻酔科医(麻酔医)

オピオイド危機(オピオイド・クライシス)とは

オピオイド危機(オピオイド・クライシス)とは、アメリカにおけるオピオイドの依存症、中毒、過剰摂取、死亡の増加のこと。米国では薬物の過剰摂取で1999年から2016年までに63万人以上が死亡。最近は25~54歳の働き盛りに集中している。

米疾病対策センター(CDC)によると、2016年の平均寿命は78.6歳で2年続けて前年より0.1歳短くなった。経済損失は国内総生産の2.8%、5040億ドル(約55兆円)と試算される。

歴史

痛み緩和の鎮痛剤

アメリカでは1990年代後半、医療現場で、患者の痛みの緩和が叫ばれるようになった。製薬会社の後押しもあり、食品医薬品局(FDA)は、強力なオピオイド系鎮痛剤の承認を急いだ。

医師の知識不足

当時は末期がん患者など以外でオピオイドを安全に使うことに関する研究が乏しかった。麻酔科医はともかく、全般的に医師の知識も不十分だった。ある看護師は「史上最悪の危機は多くの人の善意から始まった」と話す。

横流し

やがて余った薬の横流しや不正使用が始まった。過剰摂取による死者が問題になり始めたのは2010年ごろからだ。

ヘロイン

悪質な医師を摘発すると、依存症患者はヘロインなどの違法薬物に流れた。薬物中毒の母親から生まれた赤ちゃんに現れる依存症状や、ヘロイン中毒者の注射器の使い回しによるHIVやC型肝炎の感染といった問題も生じた。

対策

依存症は「脳の病気」

2017年11月に薬物問題の大統領委員会がまとめた報告書は「依存症はモラルの欠如ではなく、慢性的な脳の病気だ」と指摘した。規制強化だけでは、200万人以上という薬物依存症患者の対策にはなりそうにない。

治療プログラム

麻酔専門の医師(麻酔科医)たちは「治療施設の充実が必要だ」と訴える。さらに、警察や裁判所と医師の連携による治療プログラムも欠かせないという。

地域

ラストベルト

オピオイド危機が深刻なのはウェストバージニア、オハイオ州などだ。トランプ氏を大統領に押し上げた中西部のラストベルト(さび付いた工業地帯)にも重なる。

薬物依存の治療用に代替麻薬を投与する施設は朝5時の開院時に駐車場がいっぱいになるという。

トランプ大統領は「死刑の適用」を主張

2018年3月、汚染地域の一つ、ニューハンプシャー州を訪れたトランプ大統領は「我々は打ち勝つ。(2期目の任期となる)7年後にこの問題を残したくない」と話し、オピオイドの処方を今後3年で3割減らすなどの対策を発表した。

悪質な違法薬物の売買には死刑を適用すること、違法薬物の流入を止めるためにも国境の壁を築くことなど強硬策を打ち出した。